後書き

 「SILENZIO」をここまで読んでくださりどうもありがとうございました。書き手の鬼堂院です。
なんだか微妙な長さで、とても暗い話だったので最後まで読んで下さった方がいるだけでも幸いです。(苦笑)
「SILENZIO」はルドルフ・B・カースティン氏の生涯を、彼自身の手記によって展開していくものでした。少しでもこの大層古臭い話を面白く見せかける小細工になっていればと思うのですが・・・・・・。
 初めてオンラインで公開するオリジナル小説です。それなりの愛はありますが、書いている間はほぼ四六時中鬱でした。(笑)此処までネガティブ思考の人間の一人称を書いていると書き手の気分まで暗くなりますね。
後書きといっても書くことはほとんど無いのですが・・・・・・・・・・・・
 私的にはバイロン氏が好きでした。マイナーですね!でも書きやすかったんです。ルドルフなんかより100倍書きやすかったんです。主人公氏はちょっとばかり私には難しすぎる人種でしたので。でもルドルフも憎めないのは確かです。どんなに「こいつ、駄目な奴だなぁ」と思っても、それが全部人間の持つものだから、責められないんですよね。もし自分がこんな目にあったら、自分もルドルフと同じ事をやったかもしれません。と言うかそれを想像しながら書いたんだから当たり前ですか。
 ルドルフは母親を愛し、レイチェルを愛し、スフィアを愛しましたがそのどの愛も充分には報われませんでした。
母親に対しての捨てきれなかった怨恨のせいで、またあまりにも突然の事件だったため、彼は母親と予告の無い別れを強いられました。
レイチェルは親友の恋人でした。無理矢理押さえ込めなければならない恋心。先走る感情と押さえつけようとする理性、その間で悶々と苦しみながら続く毎日、半ば狂気に囚われそうになったところで縁を切ることを決心します。が、別れは想像していたものよりもはるかに壮絶で、自分が俗世に引っ張り出してきた病人スフィアがレイチェルを殺してしまったのですから、恐らくそれまで以上の苦悩に囚われて、ついに「燃え尽き症候群」になってしまったのだと思います。あまりの衝撃で涙は出てこず、初恋の相手を失った所為で壊されてしまった贅沢な幸せを惜しんで悲しみに打ちひしがれている矢先に、彼の憎んでいた「弟」が自分の婚約者と不貞を働いていたことを突きつけられます。彼の住んでいた幸せな世界は全て幻であり、彼のいるべき世界は裏切り行為に満ちて決してルドルフの満足できない場所だった、と言うことを髣髴とさせます・・・・・・させたつもりです。普通は気づきません。
 ひそやかに彼を蝕んでいた絶望が、義父のもたらした最悪の傷を受けたことによって爆発します。彼はついに着の身着のままで家出してしまうわけです。瀕死の状態で駆け込んだのは、遺伝子工学研究所でした。
義父は彼から、ヴィオラを弾く手と研究を続ける手の両方を、たった指二本を傷つけることによってやってのけたのです。
「彼は天才だった」皮肉にも、ヴィオラと遺伝子工学はルドルフが最も大きな価値を持つ世界でした・・・・・・。
 壮絶な悲壮の中、ルドルフの人格は崩壊し、それまでに刻々と侵略を進めていた別の人格がついにルドルフを負かします。実はこの手記の中で語っているのはカースティン氏なのですが、お気づきの方はいましたか?ルドルフは二度と他人から傷つけられることのないように、どんなに貶されようとどんなに打ちのめされようと全く気に「できない」人格を作り出してしまいましたが、その人格は皮肉にも親であるルドルフ・バードックを支配してしまったのです。
 しかしカースティン氏も、やはり動揺することはあるもので、彼の鉄の鎧は母親によく似た女性キャロラインの前で完全に打ち砕かれます。半ば妄執によって、彼は自分はキャロラインと暮らすべきなのだという思考に取り憑かれますが、そうしてはいけないことも充分知っていたのです。やはりキャロラインもまた、自分の持たぬものをすべて持つ相棒ユーリの思い人だったので、ルドルフには到底手が出せなかったのですね。それでも無理矢理キャロラインを自分のものにしようとします。
しかし彼は最終的に、ユーリにではなく自分の良心に負けてキャロラインを手放します。
 亡命したことに対するちょっとした後悔もありましたが、スフィアやナイジェルとともに暮らしていきます。スフィアは直に死ぬルドルフの我がままによって旧友に仮釈放にしてもらっただけで、実は死刑は決行されるのでした。スフィアも自分も最後にはいなくなってしまうと言うことをこっそりと胸の内に隠しながら、死の恐怖に怯え、昔を顧みるルドルフ・・・・・・。
スフィアが死んだ後、ようやく自分が彼女を死ぬほど愛していたことに気づいたルドルフは、それまでの死の観念を変えてしまうほどに苦しみます。そして死ぬ間際、自分の愛した四人の女性のことを想いながら、自ら孤独に死ぬことを選ぶのです。
 母親は病に犯されてやはりルドルフと同じように孤独に死に、レイチェルは通り魔的な確率の犯罪で命を落としました。そしてスフィアはその償いとして死刑になるわけですが、実はスフィアは無実だったのです。彼女は濡れ衣を着せられていたのでした。
レイチェルと母親に関しては、彼女たちの運命に心を痛めたルドルフですが、彼が死んだあとにスフィア無実だと分かったのは良かったと思います。もし生前に分かっていたら、彼はきっととうとう狂ってしまっただろうからです。理不尽な理由から最愛の人を幾度にもわたって奪われたり、諦めなくてはならなかったりしたのに、最後の一人もまたそうだと知ったら、皆さんはその時何をするでしょうか?
 残された人々は哀悼しますが、イタリアには墓に名前すら残さず、故郷は亡命してきたために存在を抹殺された状態です。またスフィアの無罪が分かった時点で、ルドルフの最後の別離の苦しみが全て虚構だったことが明るみにでます。
その時ルドルフは既に地上には存在していなかったのです。例え天国や地獄やもっと他のところを探しても、最早ルドルフは幻影のようなものになってしまったのです。既にルドルフ・B・カースティンがそこにいた痕跡すら残ってはいませんでした。
たった一つ、彼の残していったものが、あの書類だったのです。

 自分で書いていて暗くなる作品はもう沢山ですね。精進しなくては。
誤字脱字報告、感想、リンクエラー報告、作品に関する質問などは常時受け付けております。
それではこれにて失礼致します。
                 2005.9.7 鬼堂院 恢

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