私は今病床についている。恐らくもう治る事は無いだろう。
私はルドルフ・バードックと言う男で、30歳のイタリア人である。
何人かの方は私の名前を見て不審に思ったことだろうが、私の生まれがイタリアだというわけでは無い。
私は亡命したのだ。ひとえに私の被害妄想によって、そんな突飛で馬鹿なことをした。
 私が今住んでいる、この小さくて質素だが清潔な部屋には三人の住人がいる。私と、私の旧き友と、私の弟分だ。決して実の弟では無い―――実の弟は私の葬式に来るのだろうか?―――。
弟分と言うのは、祖国で見つけた私の分身のような少年のことだ。彼の名前はナイジェル。下の名前は忘れた。別に特記する必要もないだろう。
旧き友と言うのは一人の女性だ。私よりも年が一つか二つ下だったように思う。
彼女の名前はしっかりと覚えている。スフィア、そう、スフィア・ライドウだ。
聞いたことのある方もいらっしゃるだろうか?そう、あの有名な大音楽一家のライドウ家の隠された長女である。何故隠されたのかは一目瞭然だ―――彼女は劣っていた。先天性の遺伝子異常を患っているのである。彼女は親の体面のために病院に幽閉された。
実をいうとナイジェルもスフィアも元は同じ白子だった。私が初めて見たときは言葉が通じないほどの精神遅滞を起こしていた。まぁ、そういうことはきっと後で書くことになるだろう。
 今これを書いている部屋の四隅には絶えず憂鬱な死神が蔓延り、私は何時でもそれに怯えている。何故怯えているか?それは分からない。結局私は生に執着を持った普通の人間だったということなのだろう。人は必ず死ぬ。私は少しだけそれが早いだけだ。
 果たしてこれを書き終えることができるのかどうかわからないが、書き終わらなかったとしてもそれだけのことだ。誰も私のことを知らないままで生きていく。別に珍しいことでは無いし、当たり前のことだ。
・・・・・・なのに、どうして私は哀しく思うのだろう?夜眠る前はいつもこうだ。まるで初雪が秋の野にしんしんと積もるように、また片目の死神が物言わずやぶにらみに私を見つめているかのように、私は死を身近に感じる。
頭の中で走馬灯のように鮮やかな記憶が駆け巡り、今よりもはるかに幸せだった時代とはるかに不幸せだった時代が交錯する。
あぁ!苦痛だ!
誰か助けてくれ!
だが誰にも助けることはできない。これを助けられるのは最早死か自分のみなのに、自分ではどうにもできないことは痛いほど知っている。

つべこべ言わずに書き進めたほうがよさそうだ。一人でも読み終わってくれる人がいるといいのだが。













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